「富士宮市の魅力を常に発信していきたい」
鋳物造りから酒屋を経てクラフトビール造りへ。くにぶるが目指すクラフトビールとは。
東京都・国立。ここには閑静な住宅街の一角に2020年に誕生した新進気鋭のブルワリーKUNITACHI BREWERY(通称:くにぶる)があります。今回は直接ブルワリーにお邪魔させていただき、Head Brewer 斯波さんにブルワリー誕生の背景や醸造しているビールなどについてお話を聞いてきました。
今回の登場人物
BANSHAKU編集部多田 (以下、BANSHAKU多田)
好きなビールはセゾンスタイル。東京・原宿にあるthreefeet Tokyoというクラフトビールショップのオーナーも兼業している。
KUNITACHI BREWERY Head Brewer 斯波さん(以下、斯波さん)
愛称は「しわ」。特に好きなビールはケルシュスタイル。静岡市AOI BREWINGでHead Brewerを務め、KUNITACHI BREWERYの立ち上げに声が掛かり地元へ。Head BrewerとCreative Directorを務める。ミッフィー、シーズー、音楽、マンガが大好き。
くにぶる誕生の背景とは
まずはブルワリーの成り立ちからお話を聞いてもよろしいですか。
もともとせきやグループでは不動産や特にワインに力を入れたお酒の販売を行っておりまして、会長自身、ニュージーランドでワイナリーをやりたいという昔からの夢がありました。それから急ではありましたが、クラフトビールの醸造をやることが決まり、昨年から醸造を開始しています。
会長さんがワイン造りからクラフトビール造りに気持ちが変わった理由はありますか。
事業半ばで会長が急に亡くなってしまい、あまり多くを語る方ではなかったのでわからないことも多いのですが、もともとせきやは鋳物を造っていた家系でして、会長ご自身、ビールが大好きだったことや「モノづくりに挑戦したい」という気持ちがあったのではないかと聞いています。
斯波さんご自身はどのようにKUNITACHI BREWERYと関わりを持ったのですか。
私はもともと国立周辺が地元でして南武線の谷保駅が最寄り駅でした。地元にいたときには、駅前にあるせきやグループの一つである、国立せきやという酒屋のことは知っていたのでよくビールを買いに行っていました。
KUNITACHI BREWERYができる以前は静岡県にあるAOI BREWINGで醸造をしていて、そのときに国立せきやと同じビルの地下1階にある、CRAFT! KUNITA-CHIKAさんというお店がAOI BREWINGのビールを取り扱うようになり、地元に帰るたびに行くようになったのです。
それからCRAFT! KUNITA-CHIKAさんで他のブルワリーさんと合同でイベントを行う機会がありましてせきや酒類販売の矢澤社長を紹介してもらい、その出会いから一昨年12月末でAOI BRWINGを辞めて、地元の方に戻ってきてKUNITACHI BREWERYに参画しました。
AOI BREWINGではどのくらい醸造をされてきたのですか。
AOI BREWINGでは3年くらいですね。AOI BREWINGでは年間で約50,000リットルのビールを製造していました。私は今年で42歳でしてブルワーとしてはスタートが遅い分、今も様々な原材料の組み合わせのテストなどを繰り返し行って、少しでも皆さんとの経験の差を埋められるようにと日々試行錯誤しています。KUNITACHI BREWERYには年間70,000〜80,000リットルのビールを造れる設備があるので、早くコロナ禍がおさまって心置きなくビールをつくれるようになると良いですね。
くにぶる定番ビールのこだわり
ビールを造るときのコンセプトや考えていることを教えて欲しいです。
私自身アメリカのブルワーに近い考え方だと思うのですが、「伝統的なものは伝統として尊重しつつ、新しいことにもチャレンジするようにしていて、既成概念を大事にしながらそれにとらわれないことが大事」だと考えています。また、「ローカルブルワリー」ということや、「そのビールを造る理由(動機)」を大切にしていますね。
クラフトビールの概念自体、地ビールブーム衰退の後、アメリカから「craft」という言葉を借りてきたのですが、もともとは地ビールもクラフトビールなのです。そのため「地域のことを考えた上でそれにふさわしいビールを造りたい」と思っています。
例えば、国立という街は古いエリアと新しいエリアの二面性がある街で、北側は駅から放射線状に道路を張り巡らせるような都市計画で成り立っています。南側が古い街並み、北側は新しい街並みのように雰囲気がガラッと変わりどちらの側面も持っているのが国立です。
この二面性が大事だと思っていて、ケルシュというスタイルのビール「1926」があるのですが、ケルシュは上面発酵ながら、仕上がるビールは下面発酵並にキレが出てすっきりしている、ハイブリッドビールなのが特徴的です。二つの側面がありますね。
クラフトビールを飲んだことがない人が多いので、街のストーリーや飲みやすさを考えたときにケルシュスタイルのビールをレギュラービールにしたいと考えました。1926という商品の名前は国立の駅舎ができた年から由来していますね。
また、「るつぼヘイジー」というヘイジーIPAがあるのですが、るつぼは鋳物を造るときの金属を溶かす容器のことで、国立は昔から鋳物を造る家柄があったことを今の人はほとんど知らないのです。るつぼヘイジーは鋳物をつくっていたところが酒屋になり、ビール造りをしているということを表現していて、みなさんがそのようなことを知るきっかけになれればと思っています。
ヘイジーIPAスタイルにした理由は、るつぼが色々な金属を溶かして新しい器などを造っていくものであり、それを醸造のイメージに変えたとき、ヘイジーIPAがホップなど色々なものを混ぜ合わせているのでイメージと合致したのです。
定番商品最後のセッションIPAは「世界を点滅するモザイク模様のように」というビールです。私がモザイクホップ好きで、モザイクホップは一つのホップの中に多様な香りを持っているからモザイクと名付けられているのですが、ホップの使い方によって出せる香りが変わるのが面白いです。国立は多様性を大事にすると謳っており、東京の西側の街としては面白くなってきています。一つの素材の中に多様性があることを表現したくて、モザイクホップを単一で使用したセッションIPAにしました。
それぞれのビールのイラストデザインもおしゃれですがどのように制作されていらっしゃるのですか。
イラストはビールのテーマに沿ったイメージを私が考えることもあれば、デザインをお願いしているクラフトビールに特化したデザイナーのイソガイ ヒトヒサさんに考えてもらうこともあります。基本的にイソガイさんと相談しながら作っていきます。
また、そのイラストに合わせて、世界観を表現するコピーを国立市在住のコピーライター加藤優さんに考えていただいています。今のクラフト業界でやらなきゃいけないことと自分がやりたいことを考えたときに、ストーリー性のあるビールや、まとまった世界観をつくりだすということは絶対に必要だなと考えて、今にいたっています。
1926は駅舎の窓がホップになっていたり、周りに醸造設備が並んでいたりなど、他のイラストにもちょっとした仕掛けがあるので、細かいところまで楽しんでもらえればと思います。今後この世界観を通じて新しいことも企画していきたいです。
これからのチャレンジ
今後チャレンジしたいことはありますか。
現在はできていないのですが、減圧蒸留機を使ったビールを造りたいです。この機械は圧力をかけて沸点の温度を低くして蒸留することができます。そのためホップやスパイス、コーヒーなど適切な温度で香りを抽出で、普通の温度帯では抽出できない成分などビール造りに生かすことができます。日本でビール造りに減圧蒸留機を使っているところはまだありませんが、カクテルを造るときにこれを使っている方がいてそこから学びました。
また、若い方達に興味を持ってもらえるきっかけになりたいです。音楽や映像、動画など他の文化と融合して一緒になって楽しんでいく、そのようなこともやっていきたいですね。
Director’s Voice
今回の取材では「クラフトビール = 地ビール」という概念を強く感じました。地ビールはその汎用性の高さからさまざまな解釈をされやすいですが、その土地のものを使ったビールだけではなくボトルビールのデザインや商品名などでもその土地に根ざした地ビールを造ることは可能であると気づきを持つことができました。今後も楽しみなブルワリーです。ありがとうございました。
Junki Tada
KUNITACHI BREWERYについて
- 住所:東京都国立市東3丁目17−28 草舎ビル 1F
- 連絡先:order-sekiya@sekiya.co.jp
- 公式サイト
住所 | 東京都国立市東3丁目17−28 草舎ビル 1F |
---|---|
連絡先 | order-sekiya@sekiya.co.jp |
公式サイト | kunitachibrewery.com |
recommend
おすすめの記事